日本の歴史において「最初のお金は何か」というテーマは、多くの人が関心を持つ代表的な疑問の一つです。
学校教育や一般的な歴史解説では、和同開珎(わどうかいちん)が日本で最初に作られた貨幣として紹介されることが多く、日本最古の通貨として広く知られています。
しかし、近年の考古学調査や研究の進展により、それ以前に鋳造された可能性がある富本銭(ふほんせん)の存在が注目されるようになりました。
富本銭は、発見された場所や年代測定の結果から、日本の貨幣制度が成立する過程を考えるうえで重要な手がかりとされています。
一方で、和同開珎は文献記録が残り、実際に流通したことが確認できる点で、貨幣としての性格がより明確です。
このように両者は同じ「古代の銭」でありながら、役割や位置づけに違いがあります。
本記事では、富本銭と和同開珎の違いを軸に、それぞれの成り立ちや特徴、歴史的な意味を整理します。
専門知識がない方でも理解しやすいよう、背景や評価の違いを丁寧に解説していきます。
富本銭とは?日本最古級とされる銭

富本銭の意味と歴史的位置づけ
富本銭は、7世紀後半ごろに作られたと考えられている銅製の銭です。
奈良県明日香村周辺を中心に複数の出土例が確認されており、当時の政治的中枢に近い地域で鋳造・使用された可能性が高いとされています。
こうした発見状況から、富本銭は日本で貨幣制度が本格的に整う以前の段階に位置づけられる存在として、考古学や日本史の分野で注目されています。
特に重要なのは、富本銭が単なる装飾品ではなく、「銭」として一定の規格を持って作られている点です。
これは、国家や権力者が価値の共通基準を作ろうとした試みの一端を示していると考えられています。
また、名称に使われている「富」という文字からは、国の安定や財政的な豊かさ、あるいは統治の理想像を象徴していた可能性も指摘されています。
富本銭はいつ作られ、どのように使われたのか
富本銭は、天智天皇の時代前後、すなわち7世紀後半に鋳造されたと推定されています。
この時代は、中央集権的な国家体制が形成されつつあった過渡期であり、政治・行政の仕組みとともに経済のあり方も模索されていました。
ただし、全国的に広く流通したことを示す確実な証拠は少なく、実際の取引で日常的に使われていたかどうかについては、現在も複数の見解があります。
一部では、特定の地域や儀礼、あるいは官営事業の中で限定的に用いられた可能性が指摘されています。
そのため現在では、「本格的な実用通貨というより、象徴的または試験的な役割を持つ銭だった可能性がある」と説明されることが一般的です。
富本銭の読み方と一般的な知名度
富本銭の読み方は「ふほんせん」です。和同開珎に比べると一般的な知名度は高くありませんが、日本最古級の貨幣候補として、歴史や考古学に関心のある層を中心に知られる存在です。
近年では、博物館展示や専門書、歴史解説メディアなどで取り上げられる機会も増えつつあり、一般の人々の間でも少しずつ認知が広がっています。
和同開珎とは?日本初の本格的な貨幣

和同開珎の特徴と名前の由来
和同開珎は、708年に朝廷によって正式に発行された銅銭で、日本で初めて国家主導で制度的に整えられた貨幣として知られています。
「和同」という名称は、当時日本国内で良質な銅が発見されたことに由来するとされ、国産資源によって貨幣を鋳造できることを示す象徴的な意味合いを持っていました。
また「開珎」は、新たに通貨制度を開く、すなわち本格的な貨幣経済を開始する意志を表した言葉と考えられています。
形状は円形で中央に四角い穴が開いており、これは中国の貨幣制度を手本としたものです。
この形は、紐を通してまとめて管理できるという実用面だけでなく、当時の先進的な制度を積極的に取り入れようとする姿勢を示すものでもありました。
文字配置や鋳造の丁寧さからも、国家的事業として計画的に作られたことがうかがえます。
和同開珎が作られた時代背景
和同開珎が発行された奈良時代初期は、律令国家の体制が本格的に整備されつつあった時期でした。
中央政府は、戸籍や土地制度、税制などを統一的に運用する必要があり、その基盤として共通の価値基準となる貨幣の存在が求められていました。
それまでの日本では、物々交換や米・布といった現物が経済の中心でしたが、行政や交易の効率化を進めるためには貨幣制度の導入が不可欠でした。
和同開珎は、こうした政治的・経済的要請を背景に登場し、国家運営を支える重要な役割を担うことになります。
和同開珎の流通と役割
和同開珎は、税の支払いや官営事業における取引、物資の交換など、実際の経済活動に使われることを想定して全国に広められました。
朝廷は和同開珎の使用を奨励し、一定の価値を持つ通貨として人々に浸透させようとしました。
しかし、当時の社会では依然として物々交換が主流であり、貨幣経済が急速に広がったわけではありません。
そのため、使用状況には地域差があり、都市部や政治の中心地では比較的使われた一方、地方では従来の取引形態が続いたと考えられています。
それでも和同開珎は、日本における貨幣経済の出発点として重要な意味を持つ存在でした。
富本銭と和同開珎の違いを比較

作られた目的の違い
富本銭は、国家形成期における試みや象徴としての意味合いが強いと考えられています。
中央集権的な体制が整う前段階において、共通の価値基準を示すために鋳造された可能性があり、政治的・理念的な役割を担っていたと見る研究者もいます。
必ずしも日常的な経済活動を支えることを主目的としたものではなく、国家や権力の存在を示す象徴的な銭であった可能性が指摘されています。
一方、和同開珎は、明確に経済活動を支える公式通貨として発行されました。
税の徴収や官営事業、物資の流通など、実務的な用途を想定して作られており、国家運営の基盤として重要な役割を果たしました。
このように、発行の背景や目的が異なる点が、両者の大きな違いといえます。
製造方法や素材の違い
どちらも銅を素材としていますが、富本銭は個体差が大きく、鋳造技術がまだ統一されていない段階で作られたことがうかがえます。
形状や文字の配置にばらつきが見られる点からも、試作的・実験的な性格を持っていたと考えられています。
これに対して和同開珎は、一定の規格に基づいて鋳造されており、重量や大きさ、文字配置が比較的統一されています。
これは、国家管理のもとで計画的に大量生産された通貨であることを示しており、制度としての完成度の高さが特徴です。
歴史的評価と現在の扱い
富本銭は「日本最古の貨幣候補」として、主に学術的・研究的な価値が重視されています。
考古学的発見を通じて、日本の貨幣制度の起源を探る重要な資料とされており、研究対象としての意義が大きい存在です。
一方、和同開珎は「日本初の本格的な通貨」として広く知られ、教科書や一般向けの歴史解説でも頻繁に取り上げられています。
実際に流通した記録が残る点から、日本の経済史を語るうえで欠かせない存在とされています。
両者はいずれも、日本の貨幣史を理解するために重要な役割を持つ銭といえるでしょう。
日本の貨幣文化の始まり

古代日本の貨幣制度の流れ
日本の貨幣制度は、富本銭や和同開珎のような初期の試みを出発点として、長い時間をかけて発展してきました。
古代においては、まだ貨幣経済が社会全体に浸透しておらず、米や布、物々交換が経済の中心でしたが、国家運営や交易の必要性から徐々に貨幣の役割が模索されていきます。
その後、中世には朝廷の管理を離れた私鋳銭が流通し、地域ごとに多様な貨幣が使われる時代へと移行します。
さらに近世になると、幕府主導で金・銀・銅を組み合わせた貨幣制度が整えられ、全国規模での経済活動が活発化しました。
そして近代以降は円制度が導入され、現在の貨幣システムへとつながっていきます。
富本銭や和同開珎は、こうした日本の貨幣史の最初の一歩を示す存在として位置づけられています。
現代に残る影響と学術的価値
現在、富本銭や和同開珎は博物館での展示や大学・研究機関での研究資料として活用されており、日本史や経済史を学ぶうえで欠かせない存在となっています。
実物資料として当時の鋳造技術や国家制度を知る手がかりになるだけでなく、日本における貨幣概念の成立過程を考える重要な材料でもあります。
また、教科書や一般向けの歴史解説書でも取り上げられることで、専門家だけでなく一般の人々が古代日本の経済や社会構造に触れるきっかけにもなっています。
古銭の売買や評価で注意すべき点
古銭は保存状態や来歴によって評価が大きく変わります。錆や欠けの有無、文字の摩耗具合などが価値判断の重要な要素となります。
また、出土状況や伝来が明らかなものほど、資料的価値が高く評価される傾向があります。
特に希少性の高い古銭については、専門知識を持つ鑑定士や信頼できる専門店による鑑定を前提に考えることが重要です。
個人判断での売買はトラブルの原因になりやすいため、慎重な姿勢が求められます。
富本銭・和同開珎の偽物に注意

よくある偽物の傾向
古銭の世界では、装飾目的の複製品や模造品が数多く流通しています。
これらは観賞用として作られたものもあれば、真品に似せて意図的に作られたものもあり、見分けが難しい場合があります。
特に文字の形が不自然であったり、線が現代的に整いすぎているもの、表面の質感が均一すぎるものは注意が必要です。
また、経年劣化を装うために人工的に錆や汚れを付けている例も見られます。
そのため、見た目だけで判断せず、重さや厚み、鋳造痕の有無など複数の観点から確認することが重要です。
価値を判断する際の基本ポイント
古銭の価値を判断する際には、保存状態・希少性・歴史的背景といった要素を総合的に見る必要があります。
欠けや摩耗が少なく、文字がはっきり残っているものほど評価が高くなる傾向がありますが、それだけで価値が決まるわけではありません。
どの時代に作られ、どのような役割を果たしてきたのかといった資料的価値も重要です。
価格の高さだけに注目するのではなく、学術的・歴史的な意味を重視する姿勢が大切です。
安心して入手するためのポイント
購入を検討する場合は、実績があり信頼できる専門店を選ぶことが基本となります。
商品説明が丁寧で、鑑定結果や来歴について明確な情報が示されているかを確認しましょう。
また、不明点があれば事前に質問し、納得したうえで購入することが重要です。
こうした姿勢が、トラブルを避け、安心して古銭と向き合うためのポイントとなります。
まとめ
富本銭と和同開珎は、日本の貨幣史の始まりを知るうえで欠かすことのできない重要な存在です。
富本銭は、貨幣制度が確立される以前の段階における試行的・象徴的な銭として、日本国家が経済の仕組みを模索していた時代を物語っています。
一方、和同開珎は、国家主導で発行され、実際に流通した日本初の本格的な公式通貨として、律令国家の成立と経済運営を支えました。
両者を比較することで、日本がどのようにして貨幣という共通の価値基準を取り入れ、社会や経済の仕組みを整えていったのかが見えてきます。
それぞれの特徴や役割を理解することは、単に古銭の知識を深めるだけでなく、日本の古代史や国家形成の過程をより立体的に捉えることにつながるでしょう。
主な出典元

日本古代貨幣の創出 無文銀銭・富本銭・和同銭【電子書籍】[ 今村啓爾 ]



