日本神話の「国生み」は、イザナギとイザナミが日本の島々を生んだと語る創世神話です。
国生みの順番を調べると、淡路島が最初とする説明もあれば、オノゴロ島や水蛭子が先に登場する説明もあります。
さらに、『古事記』と『日本書紀』では、生まれる島の順番や大八島国に含まれる地域が同じではありません。
ここでは、『古事記』を中心に国生みの流れを整理し、『日本書紀』本文との違いや、現在のどの地域に当たるのかを分かりやすく紹介します。
日本神話の国生みとは
イザナギとイザナミが国土を生む神話
国生みとは、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)と伊耶那美命(いざなみのみこと)が、島々を次々に生む物語です。
『古事記』では、天つ神から「漂っている国土を整え、固めなさい」と命じられた二神が、天沼矛(あめのぬぼこ)を使って海をかき回します。
矛の先から落ちた潮が凝り固まり、淤能碁呂島(おのごろじま)ができたと語られています。
二神はオノゴロ島へ降り、天の御柱と御殿を設けて結婚します。
その後に島々を生む物語が、一般に「国生み」と呼ばれる部分です。
『古事記』と『日本書紀』に記録されている
国生み神話は、和銅5年(712年)に完成した『古事記』と、養老4年(720年)に完成した『日本書紀』に記録されています。
ただし、両書の内容は完全には一致しません。
『古事記』は一つのまとまった筋書きとして国生みを記していますが、『日本書紀』は中心となる本文に加えて、「一書に曰く」という形で複数の異伝も収めています。
そのため、日本神話に唯一の国生みの順番があるというより、文献ごとに異なる伝承が残されていると考える必要があります。
大八島国が生まれる前の出来事
オノゴロ島は「生まれた島」ではない
物語の中で最初に現れる陸地はオノゴロ島です。
しかし、オノゴロ島はイザナギとイザナミの間に生まれた島ではありません。
天沼矛から滴り落ちた潮が固まってできた島であり、二神が国生みを行う舞台になりました。
このため、オノゴロ島は大八島国の八島には数えられていません。
また、オノゴロ島を現在のどの島に比定するかについては、淡路島周辺を中心に複数の伝承地がありますが、特定できる考古学的証拠は確認されていません。
最初に生まれた水蛭子と淡島は数に入らない
『古事記』では、最初の結婚の儀礼において、女神のイザナミが先に言葉をかけました。
その結果、最初に水蛭子(ひるこ)が生まれ、葦船に入れて流されたと記されています。
次に淡島(あわしま)が生まれましたが、水蛭子と淡島は「子の例に入れず」、正式な子の数には含められませんでした。
二神が天つ神に相談すると、女性から先に言葉をかけたことがよくなかったと告げられます。
そこで儀礼をやり直し、今度はイザナギが先に言葉をかけた後、本格的な島生みが始まります。
これは古代文献に記された神話上の筋書きです。
現代の男女のあり方を説明する事実ではなく、古代の儀礼観や物語の構造を伝える記述として読む必要があります。
『古事記』における国生みの順番
大八島国を構成する八つの島
『古事記』で正式な国生みが始まった後、最初に生まれるのは淡路島に当たる淡道之穂之狭別島です。
大八島国(おおやしまのくに)を構成する島々は、次の順番で生まれます。
1:淡道之穂之狭別島(あわじのほのさわけのしま)
2:伊予之二名島(いよのふたなのしま)
3:隠伎之三子島(おきのみつごのしま)
4:筑紫島(つくしのしま)
5:伊岐島(いきのしま)
6:津島(つしま)
7:佐度島(さどのしま)
8:大倭豊秋津島(おおやまととよあきづしま)
『古事記』は、この八島を先に生んだことから、国土を「大八島国」と呼ぶようになったと説明しています。
1:淡道之穂之狭別島は現在の淡路島
最初に生まれた淡道之穂之狭別島は、現在の淡路島に当たると考えられています。
淡路島は本州と四国の間に位置します。
『古事記』では日本列島の中心にある本州よりも先に淡路島が生まれており、国生み神話の中で特別な位置を与えられています。
この扱いについては、国生み神話の原形が淡路島周辺の海人集団に伝わっていた島造りの伝承と関係するという説があります。
ただし、神話の成立過程は完全に解明されていません。
2:伊予之二名島は現在の四国
2番目の伊予之二名島は、現在の四国に当たります。
『古事記』では、この島は一つの身体に四つの面を持ち、それぞれの面に名前があるとされています。
- 伊予国:愛比売(えひめ)
- 讃岐国:飯依比古(いいよりひこ)
- 粟国:大宜都比売(おおげつひめ)
- 土左国:建依別(たけよりわけ)
伊予国は現在の愛媛県、讃岐国は香川県、粟国は徳島県、土左国は高知県におおむね対応します。
島を人の身体のように表し、それぞれの地域にも人格的な名前を与えている点が特徴です。
3:隠伎之三子島は現在の隠岐諸島
3番目の隠伎之三子島は、島根県沖の隠岐諸島に当たると考えられています。
別名は天之忍許呂別(あめのおしころわけ)です。
「三子島」と現実の隠岐諸島の島々をどのように対応させるかには議論があります。
一般には、島前を構成する西ノ島・中ノ島・知夫里島との関係が指摘されていますが、名称の由来が確定したわけではありません。
4:筑紫島は現在の九州
4番目の筑紫島は、現在の九州に当たります。
伊予之二名島と同じように一つの身体に四つの面があり、筑紫国・豊国・肥国・熊曾国という四地域で構成されています。
- 筑紫国:白日別(しらひわけ)
- 豊国:豊日別(とよひわけ)
- 肥国:建日向日豊久士比泥別(たけひむかひとよくじひねわけ)
- 熊曾国:建日別(たけひわけ)
これらは後世の九州各県の境界とそのまま一致する区分ではありません。
とくに熊曾国が示す範囲には不明な点があり、古代の地域認識を表す名称として扱う必要があります。
5:伊岐島は現在の壱岐島
5番目の伊岐島は、現在の長崎県壱岐市に当たる壱岐島です。
『古事記』では、天比登都柱(あまひとつはしら)という別名も記されています。
壱岐は九州と朝鮮半島の間の海上交通に関わる場所であり、古代から重要な位置にありました。
6:津島は現在の対馬
6番目の津島は、現在の長崎県対馬市に当たる対馬です。
別名は天之狭手依比売(あめのさでよりひめ)とされています。
対馬も壱岐と同様に、九州と朝鮮半島を結ぶ海域に位置します。
国生みの島々に壱岐と対馬が含まれていることから、古代の人々が海上の島々を重要な場所として認識していたことがうかがえます。
7:佐度島は現在の佐渡島
7番目の佐度島は、現在の新潟県佐渡市に当たる佐渡島です。
大八島国のほかの島々には別名が記される例が多い一方、佐度島には別名がありません。
もともと別名がなかったのか、伝承や本文の過程で失われたのかは分かっていません。
8:大倭豊秋津島は本州とされることが多い
8番目の大倭豊秋津島は、一般に現在の本州を表すと説明されます。
別名は天御虚空豊秋津根別(あまつみそらとよあきづねわけ)です。
ただし、研究上は本州全体ではなく、大和を中心とする畿内を指すという見方もあります。
『古事記』本文だけから地理的な範囲を完全に確定することはできません。
大八島国の後に生まれた六つの島
吉備児島から両児島までが続く
『古事記』の国生みは、大八島国の八島で終わりではありません。
二神が帰る時に、さらに次の六島を生んだと記されています。
1:吉備児島(きびのこじま)
現在の岡山県にある児島半島に当たります。
児島は現在では半島ですが、中世頃までは島でした。
2:小豆島(あずきしま)
現在の香川県の小豆島(しょうどしま)に当たります。
3:大島(おおしま)
愛媛県の大三島とする説や、山口県の屋代島とする説などがあり、比定地は確定していません。
4:女島(ひめしま)
一般には、大分県国東半島の北東にある姫島に当たると考えられています。
5:知訶島(ちかのしま)
現在の長崎県にある五島列島に当たると考えられています。
6:両児島(ふたごのしま)
五島列島の南西にある男女群島に比定する説がありますが、断定はできません。
この六島も国生みで誕生した島ですが、「大八島国」という名称の由来になった最初の八島とは分けて記されています。
国生みの順番に込められた古代の地理認識
現在の地図をなぞった順番ではない
『古事記』の順番を現在の地図に当てはめると、淡路島から四国へ進んだ後、隠岐諸島へ移り、九州、壱岐、対馬、佐渡、本州へと続きます。
一方向に列島を移動するような並びではないため、実際の航海経路をそのまま記録したものとは考えにくい内容です。
隠岐之三子島が伊予之二名島の次に置かれた理由について、「二名」の二と「三子」の三を連続させた構成ではないかという説もあります。
ただし、国生み全体の順序がどのように成立したのかについて、研究者の間で一つの結論が出ているわけではありません。
島や国が神の子として人格化されている
国生みでは、島は単なる地形として扱われていません。
イザナギとイザナミの子として生まれ、別名や男女を思わせる名前を持つ存在として描かれています。
四国と九州が「一つの身体に四つの面を持つ」と表現される点からも、国土を生命のある存在として捉える神話的な世界観が読み取れます。
大八島国は古代日本の呼び名になった
「大八島国」は、国生みで生まれた八島だけでなく、日本の国土を表す呼び名として用いられるようになりました。
「八」は八つという具体的な数を示す一方、古語では数が多いことを表す場合もあります。
ただし、『古事記』と『日本書紀』の国生みでは、どちらも実際に八つの島や地域を列挙して大八島国の名を説明しています。
『日本書紀』における国生みの順番
本文では淡路洲の後に本州が生まれる
『日本書紀』本文でも、最初に淡路洲(あわじのしま)が生まれます。
しかし、淡路洲は「胞(え)」とされ、大八洲国を構成する八洲には数えられていません。
「胞」は、ここでは胎盤や後産に当たるものと解釈されています。
淡路洲に続く八洲の順番は、次の通りです。
1:大日本豊秋津洲(おおやまととよあきづしま)
2:伊予二名洲(いよのふたなのしま)
3:筑紫洲(つくしのしま)
4:億岐洲(おきのしま)
5:佐度洲(さどのしま)
6:越洲(こしのしま)
7:大洲(おおしま)
8:吉備子洲(きびのこしま)
億岐洲と佐度洲は、双子として生まれたと記されています。
越洲は古代の越の地域、大洲は山口県の屋代島などに比定されますが、大洲の場所には異説があります。
また、対馬・壱岐や各地の小島は、潮の泡や水の泡が凝り固まってできたと説明されています。
『古事記』と『日本書紀』では大八島の内容が異なる
『古事記』では、淡路島・四国・隠岐・九州・壱岐・対馬・佐渡・大倭豊秋津島が大八島国を構成します。
これに対して、『日本書紀』本文では淡路洲を八洲から外し、越洲・大洲・吉備子洲を加えています。
また、『古事記』では大倭豊秋津島が8番目ですが、『日本書紀』本文では大日本豊秋津洲が最初の正式な洲です。
同じ国生み神話でも、どの地域を中心に置くか、どの島を八洲に含めるかが異なっているのです。
「一書」にはさらに異なる伝承が残る
『日本書紀』の神代巻は、本文のほかに複数の「一書」を収録しています。
国生みについても、蛭児が生まれる位置、淡路洲の扱い、隠岐と佐渡の順序などが異なる伝承があります。
したがって、「『日本書紀』の国生みは必ずこの一つの順番」と考えるのは正確ではありません。
一般向けに順番を整理する場合は、本文の順番であることを明記し、一書の異伝とは区別するのが分かりやすいでしょう。
国生みについて誤解されやすい点
「最初の島」は何を基準にするかで変わる
国生みで最初の島を尋ねる場合は、何を数えるかによって答えが変わります。
- 物語で最初に形成された島:オノゴロ島
- 最初の試みで生まれた存在:水蛭子、次に淡島
- 『古事記』の大八島国で最初に生まれた島:淡道之穂之狭別島
- 『日本書紀』本文の大八洲で最初に数えられる洲:大日本豊秋津洲
「淡路島が最初」という説明は、通常、『古事記』で正式な国生みが成功した後の順番を指しています。
国生みは日本列島の地質学的な形成過程ではない
国生みは、古代の人々が国土の由来を説明した神話です。
プレート運動や火山活動によって日本列島が形成された過程を記録したものではありません。
神話としての意味と、地質学や考古学で調べる列島形成の歴史は分けて考える必要があります。
北海道や沖縄が登場しない理由
『古事記』の大八島国には、北海道や沖縄が独立した島として登場しません。
国生みの島々は現代日本の領域を漏れなく並べた一覧ではなく、記紀が編纂された古代のヤマト王権側の地理認識や政治的な世界を反映した神話と考えられています。
北海道や沖縄が記されていないことは、それらの島が当時存在しなかったという意味ではありません。
日本神話の国生みに関するFAQ
なぜ淡路島が最初に生まれたのですか?
『古事記』本文は、淡路島を最初にした理由を明確には説明していません。
研究では、淡路島周辺の海人集団が伝えた島造りの神話が国生み神話の原形になったという説や、淡路島が古代の朝廷と深く関わる重要な場所だったためという見方があります。
いずれも神話の成立を説明する学説であり、確定した事実ではありません。
淡島と淡路島は同じ島ですか?
『古事記』では、最初の試みで生まれた淡島と、正式な国生みで最初に生まれた淡道之穂之狭別島は、別の存在として記されています。
淡島の比定地には、淡路島周辺の小島、和歌山市加太付近の神島など複数の説があり、神話上の観念的な島とみる説もあります。
出雲が国生みの順番に見当たらないのはなぜですか?
『古事記』では、出雲を独立した島として列挙していません。
出雲は本州側の地域であり、国生みの後に続くスサノオや大国主神の物語で重要な舞台として登場します。
国生みの島の一覧にないことは、神話全体で重要ではないという意味ではありません。
国生みと神生みは何が違いますか?
国生みは、イザナギとイザナミが日本の島々を生む物語です。
神生みは、その後に海・川・山・風・火などに関わる神々を生む物語を指します。
『古事記』では国土が形づくられた後、その国土を構成する自然や生活に関わる神々が誕生する流れになっています。
まとめ
国生みの順番は文献ごとに区別して理解する
『古事記』では、イザナギとイザナミが最初に水蛭子と淡島を生みますが、二者は子の数に入りません。
儀礼をやり直した後、淡路島、四国、隠岐、九州、壱岐、対馬、佐渡、大倭豊秋津島の順に八島を生み、これらを大八島国と呼びます。
その後には、吉備児島から両児島までの六島も生まれました。
一方、『日本書紀』本文では、淡路洲を胞として八洲から外し、大日本豊秋津洲を最初に数えます。
越洲や吉備子洲なども含まれるため、『古事記』とは順番も構成も異なります。
国生みは、現在の日本地図や列島の地質学的な形成を説明する記録ではありません。
島々を神の子として捉えた古代の世界観と、記紀の編纂時に意識されていた国土の姿を伝える神話として読むことで、その文化的な意味がより分かりやすくなります。
主な出典元
参考にした資料
- 國學院大學 古典文化学事業「古事記ビューアー 二神の結婚」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/kojiki/%E4%BA%8C%E7%A5%9E%E3%81%AE%E7%B5%90%E5%A9%9A/ - 國學院大學 古典文化学事業「古事記ビューアー 国生み」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/kojiki/%E5%9B%BD%E7%94%9F%E3%81%BF/ - 國學院大學 古典文化学事業「神名データベース 水蛭子」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/hiruko/ - 國學院大學 古典文化学事業「神名データベース 淡道之穂之狭別島」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/awajinohonosawakenoshima/ - 國學院大學 古典文化学事業「神名データベース 伊予之二名島」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/iyonofutananoshima/ - 國學院大學 古典文化学事業「神名データベース 筑紫島」
https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/tsukushinoshima/ - 国立公文書館「歴史と物語 1.古事記」
https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/rekishitomonogatari/contents/01.html - 国立公文書館「歴史と物語 2.日本書紀」
https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/rekishitomonogatari/contents/02.html - 国立国会図書館デジタルコレクション『日本書紀 巻第一』
https://dl.ndl.go.jp/pid/1920582


